築古アパート再生マニュアル2/7ーコンセプト作りー
「築古アパート再生マニュアル」の第2弾です(前回の記事はこちら)。
今回は、入居者募集に先立って行った、周辺環境や競合物件の調査方法や、それらを基にしたコンセプト作りについて、ポイントをまとめてみます。
リフォーム?リノベーション?方針模索期
相続して以来、老朽化に伴う「マイナス」を「プラスマイナスゼロ」に戻す作業と並行して、様々な工務店や会社を訪ねて、再生の方向性を探りました。
当初、頭にあったのは、いわゆる「原状回復」の要素が強い「リフォーム」では不十分なのではないか?という不安です。
理由は単純で、経営を引き継いだ段階で、設備の取替や補強などが少なからず施されていたものの、決してそれらが結果につながっていなかったためです。
そこで、住まいの全体を一新して付加価値を提案できる「リノベーション」に魅力を感じ、導入を検討しました。
たとえば、一般的フローリングの代わりに無垢材を使った床にすれば、木造住宅の良さを生かせますし、入居者募集の際にもキャッチコピーになります。
しかし、実際にこうしたリノベーションを施した物件の実例を見てみると、今ひとつピンと来ません。
1室当たり150万円から200万円という費用が負担になっているためか、建物の外観と内装で著しくバランスを欠くように思われたことが、その大きな原因でした。
築古の賃貸アパートの場合、東京23区内駅から徒歩10分以内の物件でも、1Rの家賃相場は5万円前後です。
リノベーションの結果として入居が決まったとしても、もし一部屋に200万円かけてしまうと、回収までには3年以上かかる計算です。
確かに、入居者が優先するのは室内かもしれません。
しかし、オーナーの立場として、「『地域』や『周辺環境』との調和に欠けば、真に愛着を持って支持される物件にはならないのでは?」との思いが拭えませんでしたし、これは固持すべきポイントと判断しました。
そこで、いわゆる「コスパ」を意識した再生を考えるようになりました。
五感で行う競合分析
リフォームにもリノベーションにも分類できない再生を形にするために行ったのが、相続したアパートを取り巻く環境や、周辺の競合物件の調査です。
といっても、難しいことはしておらず、付近を散策するついでに、自身の物件と似た条件の賃貸アパートの現地に赴いて、とにかく観察しただけです。
賃貸経営を行う上で、変えられない要素を考えてみると、真っ先に思い浮かぶのが「立地」と「築年数」です。
そこで、これらを念頭に置いて、競合と思われる物件の視察を繰り返しました。
面白かったのは、数をこなすことで、「外観は華美でないまでも、『手入れされている印象』は欠かせない」といった、絶対に満たすべきポイントが見えてくる点です。
元々、相続した築古アパ―トの建つ城南地区は、バブルが弾けた時も値崩れがしなかった地域だそうで、長年に渡って不動産の価値が維持されてきたエリアです。
加えて、物件の所在地は最寄駅から徒歩10分圏内ですし、近くには理系屈指の国立大もあります。
そのため、競合視察の結果と掛け合わせると、本質的に賃貸需要がある地域であることが確認でき、築古の賃貸アパートであっても、適切な手を打てば客付けは可能と判断しました。
再生コンセプト決定
五感を通して得られたヒントを総合して、再生のコンセプトを決めました。
「入居者にとって暮らしやすい建物とお部屋の提供」
こうして言葉にして書いてみると、本当に当然のことですね。
一応、コンセプトを実現するための具体的なポイントは大きく3つ挙げられます。
- 清掃や手入れを徹底すること
- 築古物件ゆえの問題を解消すること(水回りの使い勝手改善 / 冷蔵庫や洗濯機を置くスペースの確保)
- 事情の許す範囲でホスピタリティを提供すること
これらも、「当たり前」のことばかりです。
しかし、様々な生の情報に触れる中で、良質なハードとソフトをバランスよく提供している賃貸アパートは多くないことに気づかされました。
そこで、まずは凡事徹底することで、サービス業として顧客のニーズを満たせると考えたのです。
今回のまとめと教訓
再生マニュアルの第2弾として、コンセプトが出来上がるまでのプロセスを綴ってきました。
そこからは、次のような教訓が見えてきます。
- まずはあらゆる情報に触れて、五感を通じた体験をしてみる
- お金で解決するのは最後、まずは知恵を絞る
- 賃貸経営をサービス業と定義して、入居者の目線に立って考える
第3弾となる次回は、再生に向けたパートナー選定について、焦点を当てる予定です。